美憂とのやり取りを思い出しながら、私は非常階段で最後のクッキーを食べる。
美憂はそれ以降ひとりでクッキーを作れるようになり、絵心はなかったけれど味は普通に美味しくなっていた。
……もしかしたら、美憂はアイツに食べさせたくて練習してたのかもしれない。それで、もしかしたら美憂が作ったパンダクッキーをアイツは食べたことがあったのかもしれない。
そんなこと、本人に聞かなきゃ分からないけど。
『和香ちゃん、私ね。彼氏できたんだ』
そう報告してきたのは、クッキー作りを教えて間もなくの頃だったと思う。
『名前は、小暮千紘くんって言うの』
私は美憂に彼氏ができたことにさほど驚かなかった。美憂を狙っていた男はいっぱいいたし、美憂にその気さえあればいつでもできると思ってたから。
でも私は恋愛話は得意じゃなかったので美憂から聞かされるアイツの話は退屈だった。
『千紘くんがね、千紘くんはね』
正直、どうでもよかった。
でも大事にされていることは分かってた。アイツの話をする美憂はいつも幸せそうだったから。
きっと神様は美憂にひとつ大きなものを背負わせたという責任から、それ以外のものは全て与えようとしていたのかもしれない。
そんなことを考えてしまう私は、嫉妬の塊だと思う。
本当に醜くて笑えてくる。