アイツの瞳が潤んだのは、気のせいじゃなかったと思う。


私は余ったクッキーをお昼ごはんのおにぎりと一緒に食べていた。

場所は薄暗い非常口の階段。滅多に人が来ないから教室よりも落ち着けると、最近見つけた穴場だ。



――『ねえ、和香ちゃん。私にクッキーの作り方教えてくれない!?』

そう血相を変えて聞いてきたのはいつだったっけ。


何度も頼んでくるので仕方なくうちで教えることになり、クッキーなんて材料を混ぜて焼くだけなのに、美憂が最初に完成させたものは正直、石のように硬かった。

たぶん、生地を混ぜすぎたんだと思う。


もう一度作ることになり、台所に立つ美憂の横顔は今までにないぐらい真剣だった。


『急にどうしたの?』

こうして家に押し掛けてくることはあっても、なにかを教えてほしいなんて頼んできたことはなかった。

それに私だって料理はするけれどクッキー作りなんてあまりやったことがないっていうのに。


『和香ちゃん見てたらね、私もひとつずつ今までやらなかったことを覚えていこうと思って』

そう言いながら美憂は優しく生地を捏ねる。