きみとなら、雨に濡れたい




お母さんからの別れの挨拶は『気をつけてね』だけだった。

親子関係がなくなるわけじゃないし、いつでも出入りできる距離だけど、寂しさを微塵も見せないお母さんに、私は沸々となにかが込み上げてくる。


いつからだろう。

こんな気持ちを抱くようになったのは。


いつからだろう。

同じ気持ちじゃないのなら、自分だけが求めるのはあまりに惨めだと、強がるようになったのは。


「ごめんな。本当は和香も俺じゃなくてお母さんと一緒がよかっただろ?」

私の代わりにお父さんが眉を下げた。


「……べつにそんなこと思ってないから」


トラックはゆっくりと発進した。バックミラー越しに遠退いていくふたりの姿を、私はじっと見つめるだけ。


離婚の原因も、離婚していいかどうかも、離婚後のことも、私にはなんの説明もなかった。

経済的にははるかにお父さんのほうが上。でも子育てをしてきたのはお母さん。

お父さんは家族のために建てた一軒家をはじめからお母さんに譲る気でいたし、当初は私も今までどおりの生活が続くと思ってた。


けれど、私と美憂はそれぞれの親に分けられることになり、――『私は美憂から離れることはできない』

意見を言う前に、意見を聞かれる前にお母さんは家族三人の前でそう言った。


分かっていた。美憂が特別なことなんて。


生まれた時から私よりも美憂。

それは十分わかっていたはずなのに、私からは離れてもいいと言われた気がして、じわりと雨染みのように黒い感情が広がったのは気のせいじゃない。