「……アンタは勉強しなくてもテストなんて余裕でしょ」
柴田の言葉に俺は瞬きが多くなる。
俺に関心なんてないと思ってたから、そんなことを言うなんてちょっとビックリした。
「分かんないところあったら教えてあげるよ」
「は?上から目線で言わないでくれない?」
ですよね、と、俺はとりあえず期末の範囲に指定されてるページから開く。
勉強はできるけど勉強が好きなわけじゃない。
ただ俺は物覚えと勘が少しだけいいだけ。
しとしと、と屋根を伝って落ちてくる雫。
ざあざあと、まるで今日の雨音は海のさざ波に似ている。
「ねえ」
「ん?」
「ちょっと、ここだけ教えなさいよ」
柴田が口を尖らせて言う。本当にあまのじゃく。
「どれ?」と聞くと柴田はシャーペンで「ここ」と問題を指さした。
その瞬間、また海の音。
どうしてすぐに気づかなかったんだろう。
俺はガシッと、シャーペンを握る柴田の右手を掴んでいた。
「な、なに?」
「なんで……」
「は?」
「なんで、このシャーペン柴田が持ってんの?」
それは、美憂が妹のプレゼントのために買った、青いビーズのシャーペンだった。