きみとなら、雨に濡れたい




そんな坂口からすれば合併の話は損ではない。
でも坂口の口調は他人事のように淡々としていて、それを問う暇もなく坂口はカバンからあるものを取り出した。


「これ、小暮にやるよ」

それは俺が何度も借りた少年漫画。しかも中途半端な27巻だけ。

この巻の戦うシーンだけが好きで坂口に返してはまた借りるを繰り返していたのだ。


いくらせがんでも絶対にあげるとは言わなかった漫画を坂口が差し出してきて、俺はすべてを察した。


「お前も、行くの?」

「うん。神奈川。家族全員で」

こうやってみんなこの町から離れる選択をする。


「小暮は?俺みたいに県外じゃなくても親戚ぐらいいるだろ?」

「親戚は長崎にしかいない」

「長崎?いいじゃん。俺、佐世保バーガー食ってみたい!」

明るい坂口とは違って俺の顔は暗い。「でもばあちゃんがいるから」と言い返したところで胸がチクリとした。


「老人ホームにいるんだっけ?偉いよな、小暮は」

偉くなんかない。俺は今、偉いと思われるような回答をしただけのこと。


俺の両親はすでに他界していて、身寄りは母方の祖母だけ。去年までは一緒に生活していたけれど、高校に入学してすぐに認知症が悪化してしまい現在は施設にいる。


たまに顔を見せにいくこともあるけれど、多分いつか俺のことまで忘れてしまうと思う。

そんなばあちゃんを言い訳にしている俺はちっとも偉くなんかないし、むしろ最低だと自覚している。


「まあ、俺は引っ越すけど友達なことに変わりはないし、神奈川に遊びにきた時は連絡してよ」

坂口の言葉に俺は上手く返事ができなかった。


坂口との付き合いは片手の指で数えられてしまうほど短い間だったけれど、寂しさはちゃんとある。

でも友達なのに、最後まで言えなかった。


この雨は俺のせいなんだ、と。