そういえばおっちゃんはあんまり視力がよくなかったっけ。軽トラックですれ違いざまに確認しただけなんだろうけど、柴田と美憂を間違えるなんてありえない。


「さっきからぶつぶつとなんなの?」


柴田がイヤそうに俺を睨む。どうやら文句が口に出ていたらしい。
 
まさか美憂がいると思ったからなんて言えない俺は「べつに」と、口を濁す。


ここから学校まではあと5分ほどの距離。でも途中には松の木が生い茂る坂道があり、ここで休憩したくなる気持ちも分からなくはないけれど、柴田は一休みしている顔ではなかった。


「……なんでこんなところにいるの?」

柴田と雑談する気はないけれど、足を止めてしまったため、このまま無視することもできない。


柴田はぶすっと口を尖らせて、背中に隠していたあるものを俺に見せた。


「壊れたの」

それは骨が折れて残念な姿になったビニール傘だった。耐久性のないビニールはこうなってしまうと修正が効かずに、ただの不燃ゴミになる。