おっちゃんはこうして軽トラックで町をぐるぐるしてるから、美憂と一緒にいるところは何回も目撃されていたし、冷やかされたこともある。
「ちょっと雰囲気が違ったけど、あれはどう見てもあの子だったよ。お前ら最近一緒にいないけど喧嘩でもしたのかって……おい、千紘!?」
俺はおっちゃんの言葉を待たずに走り出した。
いるはずがない。
頭では呆れるほど分かっていた。
でも美憂は急な通り雨が降ると、いつもタバコ屋の前で雨宿りをしていた。
不安そうに空を見つめながら、澄んだオーラを放つ美憂と何年か前に潰れたままのタバコ屋があまりに不釣り合いだったことを思い出す。
いるわけがない。でも、いてほしいと願ってしまう。
バシャバシャッと、足元に水しぶきが上がる。
「ハア……ハアッ……」と、息が切れてきた頃。色褪せたオレンジ色の屋根が見えてきた。
タバコ屋の前にはたしかに女の子が立っていた。でもそれは……。
「柴田……」
見慣れた顔に俺は肩を落とす。
当然のことならが美憂はここにいなかった。
柴田はかなり驚いた表情をしていた。そりゃ、そうだ。
タバコ屋まで血相を変えて走ってきた俺を何事かと思ったに違いない。
つか、おっちゃん……。あれはどう見ても美憂だったなんて言ってたけど、どこをどう見たんだよ。
たしかに背丈や体格は似てるけど顔は全然違うし、美憂はこんなに不機嫌そうな態度はしない。