リスニングの次は教科書の36ページからの英文をノートに移して和訳することなった。

カリカリとシャーペンの音が聞こえる空間で、なぜか小暮の手が止まっていた。


サボッていると思いきや、もうすでに36ページの英文の和訳が終わっている。指定されたページはまだあるから、教科書をめくらないと次に進めない。


「……もしかして、私が終わるの待ってる?」

ぼそりと自分から尋ねた。


外のグラウンドをぼんやりと見ていた小暮の目が丸くなる。私から話しかけられることは想定外だったようだ。


「え、まあ、うん……」

歯切れが悪い返事。


まだ誰も教科書をめくってる様子はないから、私が特別に遅いというわけではない。

ぼんやりとしてるのに知的というのは本当だったらしい。


「……すぐ移すから」

私は急いでシャーペンを走らせた。

こっちは気を遣っているというのに、それを邪魔するように小暮はなにかを言いたそうな顔。


「なに?」

見られているとやりづらくて仕方がない。


「いや、その……」

「なんなの、はっきり言って」


教科書を見せてもらってる恩も忘れて、きつめに返してしまった。



「別にゆっくりでいいよ。急いでないし」 

小暮はそう言って、再び視線を外へと向ける。


丸まった襟足。耳の裏のほくろ。

そんなところが可愛いと美憂は言ってたっけ。


私はすっかりシャーペンを動かすことも忘れて、窓に反射している小暮を見つめる。


ガラスに流れてくる雨が小暮の顔と重なって、私には美憂を想って泣いているように見えた。