きみとなら、雨に濡れたい




「慰謝料?むしろ鼻の形がよくなって感謝してほしいぐらいだけど」

菅野を見ると道を開けるか弱い女子と私は違う。


強気で男っぽいところは今にはじまったことじゃない。幼い頃からお姫さまのように繊細な女の子が隣にいたからだろうか。

可愛らしさなんて、私には皆無だ。


「お前、まじで調子に乗るなよ」

菅野の手が私に伸びてきたところで「なにしてるんだ」と、たまたま学年主任が通りかかった。


風紀に厳しいこの先生は元々菅野に目をつけていて、なにかと注意していることは知っている。
 
私も秩序を乱しているほうだけど、ガラスを割ったり悪態ばかりをつく菅野ほど悪目立ちはしていない。


「……ち」

菅野は舌打ちをして、逃げるようにどこかに行った。


ふと視線を感じて目線をずらすと、A組の小暮千紘が私のことを見ていた。

入れ代わりでA組も次はパソコンだから移動のために廊下に出てきたのだろう。


意気がっている菅野より、私はよっぽど小暮千紘のことが嫌いだ。

千紘って女の子みたいな名前のとおり、あまり自分からは前に出てこないし、顔も背も平均的。はっきり言えば特徴がなくて、漫画で例えるなら村人Bってとこ。



――『ねえ、和香ちゃん』

なのに、アイツを見るとあの子のことを思い出す。


『千紘くんが、千紘くんは』って、いつもアイツの話ばかりをしていた。ぼーっとしてるけど実は知的で思いやりがあって、優しすぎってくらい人の気持ちが分かる人だって言ってた。


そんなの、私は知らない。

私の目に映るアイツは無気力で気だるげで、恋い焦がれるように空ばかりを見上げている。