「今日はどうする?」


傘のいらない帰り道。私は小暮と帰っていた。

約束しているわけじゃないのに、一緒に帰ることが当たり前になってきている。


「でも立て続けだと柴田が大変だろ?」
  
「大変なら最初から呼ばないよ」


私たちは付き合っていない。けれど、小暮はうちにご飯を食べにくる。


あれからうちの両親ともすっかり仲良しだし、私の知らない内に連絡先も交換していた。

お母さんはお菓子を作るたびに『小暮くんにあげて』と言ってくるし、お父さんは地方に行くと小暮に何故かお酒のおつまみのお土産ばかりを買ってきて『二十歳になったら一緒に飲もう』と約束している。


小暮はとても明るくなった。

友達は今のところ坂口しかいないみたいだけど、いつか友達自慢をされたらムカつくから、今年中には私もできるように頑張ろうと思っている。


「スーパー寄っていくけど、なにか食べたいものとかある?」

リクエストしてくれたほうが作りやすい。


「うーん。特には……」

「アンタって、本当に食に興味ないよね」

「興味ないっていうか、今まで腹いっぱいになればなんでもいいって思ってたから」

「もう、だから美憂が……」
  
言いかけて、わざとらしく咳払いをする。


「美憂がなに?」と、聞き返されたけれど、「早く食材買うよ」と、スーパーのカゴを小暮に持たせて誤魔化した。


小暮と泣きながら美憂の手紙を読んだあの日から、私はことあるごとに手紙を開くのが癖になっていた。

そのせいで少しだけ便箋はよれてしまってきているけれど、私の一生の宝物だ。