俺たちは公園を出て歩きはじめた。話しているのは、美憂が残してくれたこの雨のこと。


「っていうか、私ずっとこの雨が自分のせいだって思ってたから、なんだかまだ納得いかないなあ」

傘を少しだけ傾けて、柴田は雨を手のひらに乗せる。


――水飴症候群。この町の言い伝えはこうだ。


〝大昔に、ちっとも雨が降らない大干ばつがありました。食料不足でみんな途方に暮れているところにひとりの女の子が神様に自分の身を捧げる代わりに雨を降らそうとしました。そして女の子の死後に雨は降りました。
神様は女の子の願いを叶えたのです。
そして残された恋人や妹は、愛する人が降らせた雨を見上げながら、女の子のことを忘れずに生きていこうと決めたのです〟


真実は、こういう話だった。


きっとこれは、美憂が神様にお願いした雨だった。

きみを失って、立ち止まっていた俺たちを引き合わせてくれたもの。


美憂がいない世界で、どう生きるのか。

どうやって前に進んでいけばいいのか。

俺はずっと探していた。

それは、とても簡単だった。


忘れるのではなく、乗り越えるのではなく、美憂と共に生きれば良かったのだ。

それに気づくまで、ずいぶんと遠回りをしてしまった。