きみとなら、雨に濡れたい




静かに襖を開けると、ふわりと線香の香りが通りすぎた。居間として使われている部屋には仏壇が置いてあり、そこに――美憂の遺影があった。

15歳の彼女は笑っていた。

俺の好きだった無邪気な笑顔だ。


葬儀などの記憶がぷつりと消えているせいか、美憂の遺影もこんなに綺麗な写真だっただろうか、とまるで初めて見たような気持ちだった。


「私もずっと避けてたの。でも、手を合わせるなら小暮も一緒にって決めてた」

柴田の言葉に、俺は吸い寄せられるように美憂の元へと近づく。腰を下ろし美憂と向かい合うと、本当に見つめ合えているような気になって、じわりと熱いものが込み上げてくる。


そんな俺を見て、柴田も隣に座った。香炉(こうろ)に線香を立てたあと、りんを二回鳴らす。

そして、柴田と同じタイミングでそっと両手を合わせた。



美憂。今まで来れなくてごめん。

俺は美憂の死から逃げていたんだ。

認めるのが怖かった。


認めたら、本当に二度と手の触れられない人になってしまう気がしてた。

なんとなく、それなりにってあまり感情を揺さぶられることなく生きてきた俺に、美憂はひとつひとつの感情をくれた。

一緒に笑い合うこと、一緒に怒ること、一緒に泣くこと、全部美憂とだからできたと思ってる。


今でも不思議だよ。どうして美憂は俺を選んでくれたんだろうって。


美憂をこんなに早く連れていった神様を何度も恨んだけれど、美憂と出逢えたこと、俺の彼女になってくれたこと。

ふたりきりのかけがえのない時間を過ごさせてくれたことは、感謝してる。

俺は今、ちゃんと胸を張って生きているだろうか。

きみに、心配されていないだろうか。


美憂。美憂。まだこんなにも名前を呼んでしまうよ。