きみとなら、雨に濡れたい




「実はね、美憂は小さい頃に心臓の手術を受けられる予定だったの」

律子さんが、ぽつりと呟く。


「でも美憂の身体はすごく弱くて、手術に耐えるのは難しいだろうって。仮に手術ができたとしても成功の確率は半分以下だって言われたのよ」

「………」

「だから私は、断ってしまったの。この機会を逃したら手術そのものがもうできないと言われていたのに。その半分以下の成功率に美憂の命を預けることができなかったのよ」


律子さんの声は震えていた。そして先ほどの言葉に付け加えるように続ける。


「……寝る前にいつもね、あの時もしも手術をしていたら、成功していたんじゃないかって考えてしまうの。そんなこと思ってもキリがないことは分かってるんだけど、美憂の病気が治るチャンスを私が奪ってしまったんじゃないかって……」

律子さんが手に力を入れたところで、俺は口を開いた。


「……でも、失敗してたかもしれない。そしたら今までの美憂はいなかったかもしれないです」


律子さんにこんなことを言い返すなんて生意気かもしれないけれど。美憂の手術のことを打ち明けてくれたから、俺もしっかりと自分の気持ちを言わなきゃいけないと思った。


「俺も半分以下の成功率で美憂を預けることはできないです。もし手術をして成功できなかったら、俺は美憂に会うことはできなかったし、人を好きになる気持ちなんて知らないまま成長してたかもしれないです」

「……小暮くん」

「俺は……律子さんの選択は間違っていなかったと思います。だからそんな顔はしないでください。美憂が悲しみますから」


そう言うと律子さんは「そうね。ありがとう」と、瞳に溜まった涙を指先で拭った。