「咲良!薫!!大変な事がおこったのよ!!」


うららかな春の日をぶち壊すかの様にやって来た、甲高い声。

店の入り口で叫ぶ誰かさん。

私はハリセンを持ち、そいつの顔を見る前に思いきり叩いてやった。


「いっつ……!!」

「うるさいです、杏子」


目の前でうずくまるのは、"鬼"の杏子。

新聞記者をやっている彼女は、普段からうるさく元気だ。

……今回は、何時にも増してうるさかったからハリセンで叩いたが普段はやってない。


ちなみに時々起きる神隠し騒ぎの主犯は5割が彼女である。

杏子は完全なるトラブルメーカーなのだ。


「とりあえず入ってください。ちなみに今日薫は朝から居ませんよ」

「う、うん……。薫いないなんて珍しいわね」


何とか立ち上がった杏子を連れ、便利屋の事務所に入る。

とりあえずお茶を出し、杏子の向かいの椅子に座った。



「……で、どうしたんですか?こんな昼間から」

「……そうそう!咲良……"大嶽丸"を知ってる?」

「……は?えぇ、名前だけなら」



唐突に出た大妖怪の名前に驚きつつ頷く。

鬼神魔王とも呼ばれる、"鬼"の中でも特に恐れられている存在だ。





……どうしていきなりそんな大妖怪の名前が出たの?