「しかし……あの日何故、彼は常世に来ることが出来たのでしょう?」


薫が不意に口にした言葉。

何故そんな事を気にするのか。

私は疑問に思いつつ、言葉を返す。


「前に話しませんでしたっけ?

あの少年を巻き込んだ神隠しは、私の友だちの"鬼"がもたらしたものですよ」


それはわかるんです、と薫は慌てて言った。

そして薫は、言葉を探るようにしながらも話した。


「むしろ何故咲良さんが疑問に思わなかったのかが不思議なくらいなんですが……。

"鬼"の妖術とは言え、当時のあの人の妖力はとても弱かったじゃないですか。

普通の人間がかかる訳ないものです。

……神隠しに遭いたいとでも思っていたり妖力がそれなりにある者だったりしたなら話は別ですが……。

とにかくあれは、普通に生活していた人間がかかる術ではなかったんですよ」



……目を丸くする。

そんな事、疑問にも思わなかった。

私が妖術の専門家では無いからか……もしくは、



「……あの少年は普通の人間ではないのかも知れません。

……咲良さん以上の妖力を持つ者だったのかなと思いまして」


「私以上の妖力?……いや、私がその事を気にしなかったのならあり得ますね」



でもそれを今更気にして、何になるのだ。

私が彼と会うことなど、2度とないだろう。

薫はまだ言いたいことがありそうな顔をしていたが、私の顔を見て話すことをしなかった。



……あの少年は、何者なんだ。

少なくとも、妖怪の世界を知る者ではなかった。

それを知っていたなら……別れ際のあの言葉を言う訳がない。





 『咲良お姉さんに薫お兄さん!


また会おうね。また、俺の事ヒーローみたいに助けてね!!』





……それは、叶えられるはずのない約束。





あの日救った少年は、純粋にあの言葉を告げたのだと信じていた。

だが……。





それはもしかして、単なる思い込みだったのかもしれない、