飢えた"狼男"は私には目もくれず、少年を襲おうと試みた。



「……止まれ、"狼男"」



言霊の力で動きを食い止めた所で、私の存在に気が付いたようだ。



「"九尾の狐"の娘かよ。邪魔すんなよな!

俺は腹が減ってんだ。せっかくの人間を喰わねぇ訳にいかないだろ!」


「飢えているのなら此方の世界の食べ物を食べなさい。

人間を喰うことが許されるのは現世-ウツシヨ-のみです。

常世-トコヨ-で喰うことは禁じられていますよ?」


「生憎金がねぇんだよ!」



……みっともない奴……。

お金が無いからと言って人間を襲って良いはずない。

でもこうして金が無いからと迷い込む人間を喰う常世の住民がいることも事実だ。

少年がこれだけには巻き込まれないようにと思ったところで、"狼男"が来るとは運の悪い。


私は刀を構える。



「ふっ。随分血の気の多い奴だなぁ。

俺に勝てるとでも思ってんのかよ!?」


「えぇ。思いますね。

……"九尾の狐"、舐めないでくださいよ?」



その言葉に激昂する"狼男"。

確かに、"狼男"は妖怪でもトップクラスの強さだ。


だが。


……私がお前のような奴に、負けることなどない。