「ちょっ…やだ!」


帰る、そう決めて振り返ると今度は後ろから、背中に確かに体温を感じて
私の肩から前に回された腕が私を離そうとしていなくて

こんな形で、私は人生で初めて異性に抱き締められた。
胸もときめかない。どころか苦しいくらいの抱擁だった。


「離してっ…」


そして、抱き締められるとさっきの腕と違って振りほどくことも逃げることもできなくて

私にはどうすることもできなかった。


「なんで逃げんの」

「なんでって……」


そんなの、あんなシーン見たら誰だって逃げるよ…


「……やましいことでもあんの?木村とまた一緒にいて。
俺に見られたら困る?」


「ち、ちがっ…!」


「じゃあなんでまた2人でいたの。
俺やめてっていったよね。彼女がほかの男と2人でいるとこ見るの、トラウマで嫌だって言ったよね」


言われた、けど……


「…そんなの、私だって一緒だよ」


私だって、自分の彼氏がほかの女と二人でいるのをみたくなんかないよ……


「私…今まで彼氏なんてできたことなかった。
いつだってアクセサリーにしかなれなくて…私が好きになる人、両思いかもって思える人はいつもすでに彼女がいて……

やっと始まる、そう思えばいつも終わって

他に女がいることを知って、いつもそんなんで……


それを知ってしまったらもうそばにはいられない。
だから知らないふりをしようって、そう思っただけだよ。
私が知ってしまったことを気づかれたらもうそばにいられないから、だから……」


見ちゃったなら、もう逃げるしかないじゃん…
どれだけそばにいたくても、私はいつも一番にはなれない。


「…ごめん、嫌なこと思い出させて…
もう、俺とは一緒にいたくない…?」


……ずるいよ。
そんなこと聞くなんてずるい。

どうして私に聞くの?私がそばにいたいっていったらどうにかしてくれるの?
なにか変わると言うの?

私がそばにいたくないといったら、わかったといって離れていくんでしょう?
その選択を、私にさせるんでしょう?


そんなの、ずるいよ……


「……やっぱり、彼女なんかになるんじゃなかったな」

「えっ…?」

「ただの先輩後輩だったら、まだそばにいられたのに」


こんなに苦しい思いをすることはなかった。
こんなに切なくなることもなかった。

また、同じことを繰り返すこともなかった。


なにも知らず、こんな感情も知らずに一緒にいられたのに……


でも、圭介はそんな私の言葉を聞いても離すことはなく、なんなら力をまた強くした。


「それって、俺のそばにいたいってこと?」


……また、そんなずるい質問を私にして