「……真希」

「ん?なに」


二人が出ていったあと、お母さんが座っていた椅子に、将希が腰かける。
さっきとは違って、ちょっと真剣な表情で

でも、返事は来ない。
下を向いたまま、言葉が出てこなかった。


「……圭介のことなら覚えてるよ」


だから、私から言った。
きっと、私が覚えているのかわからなかったんだと思ったから。
もし私が忘れてたら『覚えてるか?』なんて、聞けないもんね。


「…そっか、ならよかったわ」

「……あれから、回復してる?」

「あぁ、順調。
…会いに行くか?」


その将希の問いに、私は首を振った。


「ううん、いかない。
私はもう、彼女じゃないもん」


もう、私は彼女じゃない。
かといって、友達でもない。

ただの、元カノにすぎない。


……だから、私は会いにはいけない。


「元気ならそれでいいよ。
それ聞いて安心した」


心から、そう思った。
会いたくないわけじゃない。会えることなら会いたい思いもある。
……でも、私がそばにいたら、圭介の邪魔になるから。
この前、圭介の本音を聞いたから。

もう、アユさんを想う圭介の邪魔はしたくないんだ。


圭介が元気ならそれでいい。
元気に生きていけるなら、それでいいよ


「……そ、わかったよ」


私も、前に進むんだ。
どんだけ圭介が好きでも、二度と会えなくても、ね……

悲しい終わりになんかしたくないから。


ハッピーエンドにはまた出会えなかったけど…でも、後悔はしてない。
胸を張って言えるよ。


『素敵な恋でした。』ってね。