私の声に、圭介の肩がビクッと反応した。
「真希…来てたんだ?」
「うん。おばあちゃんに聞いて。
……なにしてんの?」
「んー、なんか
ここに来ると心が洗われていく気がして。
ちょっと、気持ちの整理」
「気持ちの整理?」
「ん、俺の中の優先順位を決めてんの」
そう言う圭介の顔がとても真剣で、滝を見つめる瞳の奥までは私にはわからなかった。
「……真希も入る?冷たくて気持ちいいよ」
「え、でも私寒いんだけど」
「えー、この時期しか入れないのに、もったいないなぁ」
……そういわれましても、私スニーカーだし。
それに、やっぱり寒そう…
ただでさえ寒いのに、足を濡らしたらもっと冷えそうだしな…
「…圭介はここが好きなの?」
「んー、俺は別に。
ただ…妹が好きだったんだよね、ここ」
「え?…妹さん?」
「ん。夏はよくここで遊んでた。
妹が死んでからは初めて来る」
「そっか。……じゃあ、どこかで見てるかもね?」
私はそういってここに座って、また滝を見上げた。
どんな姿をしていたのか、私にはわからないけど…圭介、またひとつ大きくなったよって、私なりに妹さんを想ってみた。
「…なんか、そしたら憎まれそうだな
俺だけ生きてて」
「は?圭介の妹さんはそんなひどい人じゃないでしょ?」
「え?」
「自分の兄が元気で生きてるのに、恨むわけないじゃん。
きっと、たくさん生きてねって言ってるよ」
ね、そうだよね?
圭介には、まだ死んじゃだめだよーってどこかで言っているんでしょう?
…アユさんもね。
幸せになれと望まれてここまで生かされてきた。
……それなのに、自分の兄が生きてることを恨むなんて絶対しないよ。
「でもなんか…俺だけこんな楽しんでていいのかなって思うときあるんだよね」
珍しかった。
アユさんのことはあんまり自分から話したりしないのに…妹さんのことだとこんなに話してくれるのかって
胸に秘める思いを話してくれることがあるんだなって…
「まぁ、それはわかんなくはないけど
……でもさ、悲しみに暮れて生きてるんだか死んでるんだかわかんないより
悲しんだ分、楽しむことも大事だと思うけどね」
「……そうかな」
「そうだよ。
なんか人間って悲しいことがあると楽しいこと置き去りにしがちだけど
悲しいときこそ楽しめよってたまに思う」
…あんまり人のこと言えないけどさ。
でも、私でもそう考えるときがある。
いろんな自粛があるけどやっぱり元気がないとなにもできないから。
なんにも始められないから。
「…真希も成長したね
俺と知り合ったときは生きてるんだか死んでるんだかわからなかったのに」
「あの頃は本気で生きてるのやめたかったから
……でも、圭介と知り合っていろいろ考え方変わったの」
「そっか
…じゃあ俺のあの声かけも無駄じゃなかったってことが」
あの頃…本当に、私はつかれてた。
死にたいんじゃない。
生きてるんが嫌だったんだ。
死んで楽になりたいんじゃなくて
生きてるのを諦めたかった。
…こんな意味不明な思い、誰にも言えなかったんだけどね。
言う人もいなかったけど。


