『好き』なんて恥ずかしくて口にすることが恥ずかしくて
こんなにも恥ずかしいことだとは思わなくて、私は先にスタスタ歩き始めた。
ろくに気持ちを言葉にしたことがなかったから想像以上に恥ずかしくて…
「ちょ、真希!」
彼氏も置き去りだ。
「結局俺のこと好きなの!?」
「ど、どんだけ大声で聞いてんのっ」
「真希がちゃんと言ってくれないから!」
……んもう、なんだかなぁ
恥ずかしい人だ。
「だ、から…
……ちゃんと好きです。
言わせんな、バカ」
もう、恥ずかしすぎてどんどん歩くペースが早くなる。
この熱をさっさと冷ましたくて必死に歩く。のに……
「…ちょっ!圭介っ」
ガバッと、後ろからまた抱きついてきた。
外ではするなって、今日もうすでに言ったっていうのに。
「俺も、真希のことだいすきだよー」
「知ってるってば…!離せっ」
「離せはひどくない!?
どうせ暗いし誰もいないんだからいいじゃん!」
「それでも解放感ありすぎてなんかやだっ」
私がそう言っても圭介は全然離す気配がなくて、私がむりやり抜け出そうとすると腕の力だ強まった。
「……俺、だからちゃんとひとつずつけじめつけてくるから」
「……けじめ?」
「うん」
圭介はそう言って、私の体から離れて私と向き合うように立ち、指を絡めた。
「美咲もけじめのひとつ。
昔、俺美咲のこと好きで、美咲も俺のことが好きで
美咲はそのまま時間が止まってたみたいだから、俺はもう前に進んでるからって
今は真希が好きだからってちゃんと話してきたから」
「……そっか。」
「ちゃんと、真希のことだけが好きでいられるように
真希が傷つかないようにするから、俺」
「……ふふ、ありがと」
別に、そんなことしなくてもいいのに
ちょっとだけ、そんなことを言おうとしてしまった。
…でも、そうやって無理するのはやめることにする。
結局自分を苦しめることになる。
そして圭介も苦しめることになる。
だから、これからは気持ちに素直になるって決めたよ。
素直に、私だけを好きでいてくれる圭介が私は欲しい。
「帰るか」
「いやそれさっき私がもう言ったんだけど」
「だって止まってるから」
指を絡めて、私たちはまた一緒に歩き出した。


