今日は校舎内の掃除をする。
掃除のときの班で、特別教室に向かう。


机はもう外に積まれていて、箒で掃いていく。


「成績自信ある?」


「あー、英語はまあ頑張ったからあるかな」


「浅野ちゃんは?」


「ない」


即答すると、私もーとガサガサ履きながら笑った。


「欠点も怖いけど、欠点すれすれの二でも怒られるし……数学で二取ってそうで怖い」


私は不安を示すように小刻みに箒を動かした。


「数学はねー仕方ないよ」


「うちはノート綺麗にとったから謎の自信がある」


「かなめちゃんのノート綺麗だもんねー。私なんかちょちょいっと書いてるもん」


言葉のリズムに合わせ、大げさに箒を動かした。立った砂埃はちょちょい、なんてレベルではない。
埃が一箇所に集まり、あとはちりとりで取るだけだ。
埃をちりとりに追い立て、掃除は終わった。


時計を見ると時間はまだ余っていた。この時間を細かい部分の掃除にあてる……はずもなく、雑談していた。


向かいの窓に友達の姿を見つけたらしく、換気のため開けていた窓から乗り出し、教室にいる友達に話しかけていた。
私は壁にもたれ、背中が冷たいと思いながらも動かないでいた。


やがてチャイムが鳴り、終わったねーと言いながら教室を出る。


うちのクラスは無事全員の進級が確定。だからもう二年生で使う教室に荷物を移動させていた。


教室に入ってもいいと言われたので二つの入り口からなだれ込む。
席に着いてしばらくすると、配布された紙を後ろに回していった。


高校は教科書を学校に置いておけてよかった。最終日は心も体も軽くなっているだろう。


なんて呑気に背もたれにもたれていたら、先生のとんでもない発言で飛び起きることになる。


「名簿順の変更があるかもしれないから荷物は全部持って帰るように」


「は!?」


座っていた人は固まり、後ろのロッカーに教科書を積み込んでいた人はぐるんと振り向く。


「名簿順の変更って……みんな進級するんじゃないの!?まさか実は欠点の人がいました……とかじゃないよね!?」


「やめてよそういうのー!」


「俺心当たりあるんやけど……」


成績に自信がない人は不安を口にする。
具体的な成績はまだ教えられていないけど、欠点はないと確定したはずだ。後から欠点がありました、なんて言えば袋叩きにされてもおかしくない。


「ほら、転校生とか、逆に転校していく人がいないとは限らんだろ?」


そこで、なんだと安堵の息をもらした後、それなら先に言えよという声が続いた。
一応私は使わない教科書をすでに持って帰っていた。残っている教科書は数少ないけど、今日も軽いリュックサックで帰れるという期待は裏切られた。


渋々教科書をリュックサックの中に入れ、教室を出た。
まあ授業がある日よりは軽いけど……。


用はなくなった校舎を後にし、校門に向かう。いつもの校門は人や自転車で溢れているため、別の門から出ることにした。


轢かれないよう駐車場のそばの花壇に沿って歩き、小さめの門をくぐる。
学校を囲うコンクリートの壁を過ぎていこうとした時、見慣れない子を見つけた。
きょろきょろと辺りを見回す、同じくらいの年の子。セミロングの髪を揺らし、リュックサックの肩紐を握りしめていた。


話しかけては迷惑か、と思ったけど、一度勇気を出すと大胆になるのかもしれない。
それに様子が気になった。


「あの……この近くに何か用ですか?」


恐る恐る声をかけると、落ち着かない動きがぴたりと止まる。


「はい……あの、この学校の方ですよね?実はこの学校に……」


チエック柄のスカートを見つめながら答えた。
学校のことなら簡単だ。


「じゃあ私が案内します。まず事務室に……」


私が校門を手で指し示すとついてくる。
いつもは使わない方の校門を使ったおかげで、人にもあまり見られず、居心地が悪くなることもなかった。