「奏はさぁ、何で音大行かなかったんだ?
コンクールでもいっぱい賞貰ってたし、
才能あるじゃん。」
高校生の頃、俺は、奏は絶対音大に行くものだと思い込んでいた。
「才能なんて、ないよ。
私が賞とれるのは、地方大会までだもん。
毎回、全国に行ったら、かすりも
しなかったし。
日本の大会で優勝する人は、毎年出るんだよ?
日本一になっても、ピアニストだけで食べて
いける人なんて、ほんの一握りでしょ?
世界で優勝できる位の実力がなきゃ、
ピアニストじゃ食べていけないもん。
私、人見知りだから、ピアニスト崩れで
ピアノの先生になるのも嫌だったし、手に職を
付けようと思って大学は情報処理学科に
したの。
幸い手先は器用だから、キーボード打つのも
簡単かなぁって思ってね。」
確かに他の人より、指は動くだろう。
だから今も、パンチャーのパートをしてるんだし。
それに奏は、おっとりしてて文系タイプに思われがちだが、数学が得意な理系タイプだった。
「そうなんだ。情報処理やって良かった?」
「うん。SEの仕事は嫌いじゃなかったよ。
人間関係でいろいろあって、やめちゃった
けど。」
「いろいろって?」
「まぁ、いろいろよ。
あんまり思い出したくないから、聞かないで。」
めっちゃ気になる。
男?
いじめ?
やっぱり男か?
でも、奏に聞くなと言われれば、俺にはそれ以上聞けない。
これが惚れた弱みというやつか。



