(夢を見て、自分の最初の考えに気付けた…。これからは、もっともっと上手に演技をしよう)


絶対に、ママの前では泣かない。


希望も持たず、全てを諦めて。


感情も消し、偽りの自分を作り続ける。


これしか、方法は無い。


いや、これしか方法は無かったのに、ずっと他の逃げ道を探していたのだ。


険しくて困難で、けれどその道が1番安全だと気づいた私は。


ためらう事も無く、その道を進むだけ。



4階に着いた私は、そっと自分の教室のドアを開ける。


皆は騒いでいた為、ドアの音で静かになることは無かった。


それに心の中で安心しながら自分の席につこうとして、私は急ブレーキをかけて立ち止まった。


私の隣の席の五十嵐が、1時間目だったはずの国語の教科書に目を通している。


いつから教科書を読んでいたのかは分からないけれど、教科書を持つ指先は白くなっていた。


それ程、彼は教科書を持つ手に力を入れていて。


(ん?)


何となく、私は首を傾げながらその様子を見守る。


「っ……意味、分かんねえ」


途端に、周囲のざわめきの中に紛れて彼の声が聞こえた。


「ん?」


今度は心の中ではなく、声に出してしまった私。


(何が、意味分からないの?)


五十嵐が開けている場所の題名と文章から察するに、きっとそれは物語文。