その言葉を言うのが、どれ程辛いか。


花恋は、分かっているのだろうか。


「じゃあ、本当に優希のお母さんは優希の事を忘れて、その代わりに優希のお兄ちゃんだと思っているって事か…」


「うん、そうだよ」


花恋は、唾を飲み込んでまた口を開いた。


「その…、家の中で優希がお兄ちゃんになり続けるつもりなら、いつまで続ける気なの?」


(えっ…)



そんな事、考えた事がなかった。


明日までかもしれないし、1年後までかもしれない。


つまりは、ママが私の事を分かってくれるまで、私は演技を続けるのだ。


「ママが、私の事を分かってくれるまでだと思う…」


もう、これ以外に良い方法が思いつかない。


もしもママに、


『私は、優希だよ』


と言ったとして、ママが覚えていなかったら。


本当に私の事を忘れていたら、私はどうなってしまうのだろう。


「そっか…」


そんな私の気持ちを汲み取ったかの様に、花恋は私の目の前に立ち、私の手を握りしめた。


「でも、これからずっと優希が家の中で男になったとしても、私は優希を女子だと思って接するからね!」


「えっ……」


私は、驚きの余り目を見開いた。


「優希が自分を見失っても…、男か女か分からなくなっても、私は優希が女子だって分かってるから!」