けれど、これも今のうち。


きっとこれは何かのドッキリで、すぐにママは元に戻るはず。


そう、心のどこかで安心している自分もいた。



私は、ママに半ば強引に部屋へと連行された。


「勇也、支度が出来たら呼んで。出掛けるからね」


ママは優しくそう言い、ドアを閉めてくれたけれど。



(ここ、私の部屋じゃないよ…)


閉ざされたドアを見つめながら、私は身動きが取れなかった。


(ここ、お兄ちゃんの部屋…)


そう。


ここは、私の部屋の隣の兄の部屋。


何故、ここに連れられたのか。


「このドッキリ、笑えないよ…」


私は、掠れた声で呟く。


意味が分からない。



久しぶりに見る兄の部屋は、兄が居なくなる直前までの姿を保っていた。


(お兄ちゃんのベッド…)


私はゆっくりと視線をずらす。


(お兄ちゃんの本棚…)


(お兄ちゃんの机…)


私は、そっと兄の机に手を触れる。


(お兄ちゃんの、椅子…)


全てが、懐かしい。


それと同時に、とても息苦しい。


「お兄ちゃんは、居ない……」


自然と、手を置いていた机に力がこもる。


(早く、ここから出ないと…)


何とも言えない辛さが、足元から這い上がってくる。


早くこの部屋から出ないと、何だか私が壊れてしまいそうで。