「ママ…?」


怪訝に思って尋ねる私の声と、


「勇也、おかえり…」


という、ママが発した信じられない言葉は、同時に重なった。


(今、何て…?)


「ママ…?」


2度目の私の声は、震えていた。


(お兄ちゃんは、もう居ないよ…?)



何だか、とても怖い。


ママが、何か恐ろしい事を言ってしまいそうで。


私を愕然とさせるような、何かを言いそうで。


そして、その予感は悲しくも的中してしまった。


「勇也、久しぶりね…。何処へ行っていたの?」


ママは、私の目を見たまま語りかける。


その表情には、喜びが満ち溢れていた。


「ママ、どうしたの?私はお兄ちゃんじゃないよ」


首を傾げながらそう言う私の言葉に、ママは一切耳を貸さない。


「どうしたの、勇也?あなたは勇也でしょう」


ママの目は、私を見ていなかった。


いや、正確には、私を見てはいる。


けれど、私に重なる“何か”を見ている様にしか見えなくて。


「っ…!」


急な親の変貌が怖くなり、私はそっと後ずさりをする。


「勇也、何でまだ玄関に突っ立っているのよ。ほら、少ししたら出掛けるから準備をしておいて」


私が少しずつ後ずさりをしている事に気が付いたのか、ママは私の腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。


「ひっ…!」


(怖いっ!)


初めて、ママが怖いと思えた。