全ては、勇也が亡くなってからの私のある行動から始まったから。


私があの行動さえしなければ、私もママも今よりは満足のいく生活を送っていたかもしれない。


(馬鹿だな、私……)


少女の私を見ながら、私はそう胸にごちる。


胸までの長さの髪をポニーテールに結いている私は、数年後に男のように短く髪を切っているだなんて想像もつかないだろう。


“髪の毛は、女の命”


そう花恋から教わった私は、勇也が亡くなる前まで肩より短く髪の毛を切った事がなかったのに。


そんな事を考えているうちに花恋の演奏は終わり、幼い私はパチパチと拍手をしていた。


『凄い、凄いよ、花恋!』


屈託のない笑みを浮かべ、私は花恋を褒め称えている。



こうやって笑えるのも、今のうち。


(“男”になったあなたは、きちんと笑えていないんだよ)


私は、昔の私に向かって心の中で呟いた。


もし、これが夢ではなくて現実なら。


私が過去に戻れたら、幼い頃の私にこう言うだろう。


『お兄ちゃんが居なくなってから、髪を短く切っちゃ駄目だよ』


そう。


全ては、ここからが始まりだった。


私が髪を切った、あの日から。