私の本音は、あなたの為に。

それでも、矛盾した考えが生じてしまうのは何故だろう。


「私は、勇也じゃないっ…!」


ママが泣く姿を見るならば、私が壊れた方がましだと思っていたのに。


先程も、花恋の前でそう思ったはずなのに。


“勇也”になり続ける、と。


「ママ、違うよっ…!」


私は、強くなかった。


いつの間にか私は、家の中なのに“男”という概念から解き放たれていて。


ありのままの姿の私は、その場に泣き崩れる。


「私は優希だよ、ねえっ…!」



誰も居ないキッチンの冷蔵庫の前で泣き崩れる少女。


この光景を誰かが見たら、どう思うだろう。


いたわるだろうか。


慰めるだろうか。


一緒に泣くのだろうか。


元気づけるのだろうか。


形は様々だけれど、この光景を見た人は私の気持ちに寄り添おうとするだろう。


けれど、誰も私の泣いている本当の理由に気付かないだろう。


私はきっと、怖くて他の理由を言うはずだから。


今まで家の前で嘘ばかりついてきた私にとって、嘘は体の一部。


嘘をいう場面になったら、それこそ皆が呆れる程の嘘をつき続けられる自信がある。


けれど、私が今どれ程泣いたとしても、現実は変わらない。


明日になれば、私はまた“勇也”になりすますだろうし、学校では“優希”として生活するだろう。