私の本音は、あなたの為に。

『勇也へ


今日は20:00位まで帰って来れないと思うから、作っておいた夕飯を電子レンジで温めて食べておいて。

もしも時間があれば、お風呂にも入っておいてね。


母より』



何度も何度も、その書き置きを読み返す私。


「勇也っ…!」


どうしてか分からないけれど、1粒の涙が紙の上に落ちる。


何故自分が泣いているのか、涙を流しているのか、分からない。


「何でっ…?」


落ちゆく涙を手の甲で拭い、テーブルの濡れた部分を拭き取る。


よく分からないまま鼻をすすり、私は冷蔵庫を開けた。


(夕飯…)


そこにあったものは、ハンバーグ。


「あっ…」


私の好きな食べ物の1つである、ハンバーグ。


(ママ、私の事…!)


私が“優希”という事実を飲み込めたのだろうか。


だから、ハンバーグを作ってくれたのだろうか。


その思いは、私の次の考えで一瞬にして消された。


(お兄ちゃんも、ハンバーグが好きだった……)


ママがハンバーグを作ったのは、“優希”がハンバーグが好きだからではない。


“勇也”が、ハンバーグが好きだから。


そこでまた、分かりきったはずの事実が重く私にのしかかってくる。


(ママは私を見ていない。勇也を見ている)


ずっと前から、知っていたのに。


分かっていて、諦めて、それでも良いと願ったのに。