私の本音は、あなたの為に。

6階建てのマンションの最上階に住んでいる私。


遠くから見ても、6階の部屋の電気が付けられていない事は、誰でもすぐに分かる事で。


「本当だ…。ママ、帰ってきてない」


私は、誰ともなしにそう呟く。


「鍵はあるの?」


まるで、本当の母親のように尋ねてくる花恋に、私は笑いながら答えた。


「持ってるよ。もう花恋ったら、そんなに心配しなくても…」


私の呆れた顔を見ながら、花恋は、いいのいいの、と笑った。



私は、分かっている。


花恋が私を心配してくれている、本当の理由に。


それはもちろん、鍵ではない。


花恋は、私が男になり続けている事を心配しているのだ。


私が男のふりをしていて、いつか本当に男になってしまうのではないか。


もしくは、本当の自分を見失ってしまうのではないか。


花恋がそう思い、私の為を思って行動してくれている事は知っている。


花恋の為に、私の為に、私も男にはなりたくないけれど。


ママの為に、なり続けなければいけない。


ママは、もう“優希”という娘の事は眼中に無い。


あるのは、“勇也”という息子の事だけ。


(私はここに居るの。私を見て)


自分の存在意義が分からなくなったからこそ、私はママの中に唯一残った“勇也”になり続ける。