「ママ。…私ね、“勇也”じゃないの」



一息に言ってしまい、すぐさま私は激しく後悔した。


(え、こんなに普通に言っちゃって良かったんだっけ?)


(もっと溜めてから、言うべきだった?)


けれど、言ってしまった言葉は取り消せない。


その証拠に、ママは、


「嫌だわ、どうしちゃったの?あなたは勇也よ。…確か前にもこんな事があったわね。からかうのはやめて」


と、苦笑いを浮かべていた。


「ママ、私だよ?…私の事、分かるでしょ?」


本当は、凄く怖い。


けれど、言ってしまったから。


2人も、この会話を聞いているから。


「だから、勇也でしょう?あなたは勇也よ、自分の名前を忘れちゃったの?それから、どうして1人称が“私”なの?何かあった?」


『え、やっば……』


またもや、五十嵐のコメントが聞こえた。


「ママ、本当に分からないの、私の事?」


(ママ、気付いてよ!私だよ?優希だよ?)


何度も同じ事を尋ねる私に、ママは呆れた様に首を振った。


「勇也、いい加減にして」


「ママ!」


(私だよ!分かってよ!)


視界が歪み、瞬時に下唇を噛み締めた。


「……ママ」


自分の名前を言うのは、最後の最後にしようと思っていたけれど。


ママが思い出してくれなくて、しかも怒りかけているのだから、もう言うしかない。