「っ、あの、ママ…、」


自分の部屋から出た私は、椅子に座ってドラマを観ているママに恐る恐る声を掛けた。


「どうしたの、勇也?…何だかこの頃、“ママ”って呼ぶブームでも流行ってるのかしら?」


『うわぁ…』


早くも、私の事を“勇也”と呼び、“ママ”と呼ばれる事に違和感を感じている私のママの声を聞いた五十嵐が、何とも言えない声を上げた。


片耳に差し込んだイヤホンは、どうやらママには気付かれていないようだ。


「あのさ、話があるんだ。…聞いてくれる?」


さりげなく、本当にさりげなく、私は“優希”の口調を出していく。


「分かったわ、テレビ消すわね。……どうしたの?悩みでもあるの?」


ママは、まだ気付かない。


「あの、ね……」


ごくりと、唾を飲み込む。


私を真正面から見るママの瞳には、誰が映っているのだろうか。


少なくとも今は、“優希”ではない。



(やばい、怖い…)


黙ってしまった私に、


「話してみて?」


と、いつもの口調で話しかけて来るママ。


その優しい笑顔を、今から私が壊すかもしれないという事も知らないで。



『優希、大丈夫だよ!落ち着いて、いつも通りに』


不意に、イヤホンから花恋の声が流れ込んできた。


(花恋…!)


「…うん」


(私なら、大丈夫。……多分だけど)


私は軽く頷き、ママを真正面から見つめ、ゆっくりと口を開いた。