「……え、嫌っ、無理無理無理!五十嵐今の撤回してお願いだから!それだけはいくら五十嵐でも絶対無理!いや、他の人に頼まれても無理!」


きっかり1分、口を開けたまま固まっていた私は、大声で喚き散らした。


「じゃあ安藤は、安藤がこのまま家で安藤のお兄ちゃんになり続けて辛い思いをするのと、最初は少し辛いけど、家でも安藤として生活出来るのと、どっちがいいの?」


“安藤”が連呼され、どの“安藤”を言っているのか区別が出来なくなりかけながらも、私はぶんぶんと首を横に振った。


「…五十嵐、それは本当に無理!だって私のママ、私の事分からないんだよ?…それなのに私の本当の名前とかをカミングアウトしたら……」


『優希?…何を言っているの、あなたは勇也でしょう?』


いつかの、ママのきょとんとしたあの顔が目に浮かび、私は必死になって拒否をした。


「大体、何でそんな事言うの!?今そんな感じの話題じゃなかったよね!?五十嵐の、何だっけ…ディスクなんちゃらの話だったじゃん!話飛び過ぎじゃない!?」


「ディスレクシア。安藤、落ち着いて。っ…」


五十嵐は私をなだめようとしながら、私の後ろにある何かの字を見たのか、若干眉間にしわを寄せた。


「まあ、話飛び過ぎたけど…。でもやっぱり、メリハリって言うの?一区切りつけるべきだよ」


「だからって、今!?」