私の本音は、あなたの為に。

五十嵐は、ふっと笑って答えた。


「ほら、あの時も俺読めなかったから。やっぱり高校生にもなると、そういう奴って普通の人と違っておかしいわけだからさ」


五十嵐は、自身の髪を掻きむしった。


五十嵐の後ろの窓から夕日が入って、丁度良い角度で彼の目を薄い茶色に染めた。



(五十嵐が、おかしい?)


私は、彼の言葉を聞いて心の中で自問自答を始めた。


(五十嵐は、おかしくない。…少し、字が読めないだけで)


(字が、読めない?……良く考えて、私。高校生にもなって、字が読めない人なんて居るの?)


(…普通、居ないよね)


私は、斜め下を向いてしまった五十嵐をそっと盗み見た。


五十嵐は、今日も1度も本棚の方を自ら見ようとしていない。


壁に貼られた本のPOPのポスターも、見ていない。


それに、よくよく考えたら彼は授業中もきちんと教科書に目を通していないではないか。


(五十嵐は、本当に目が悪いから字が読めないの?)


(…違う。絶対に違う。何か、理由があるはず)


(字が読めない…読まない?理由が)


目の前では五十嵐が、


「はあっ……」


と、大きくため息をついている。