私の本音は、あなたの為に。

「それで、俺……。急だったし、テンパってて、読めなくて…」


五十嵐の声は、震えていた。


やはり、そこで私は違和感を覚えた。


五十嵐はずっと日本に住んでいたはずだし、海外に居たという経験も無いはずだ。


だから、日本語の読み書きは、遅くても小学校から教わったはずなのに。


ずっと前から疑問に思っていたけれど、彼が字を読めないのは、目が悪い云々の問題ではない気がする。


何故なら、彼は“字”以外のものなら、距離が遠くても普通に見えているからだ。


1学期の視力検査も、両目ともAだったはずだ。


「うん」


前々からの疑問を一旦押し留め、私は至って普通に相槌を打った。


「で、そしたら佐々木がキレて、良く分かんないけど胸ぐら掴まれて。…そこからは、安藤も聞いてたんじゃない?」


佐々木、俺にむかついたのかな?、と笑っている五十嵐の頬は、引きつっていた。


「…そっか…」


何て返せばいいか分からず、形だけ相槌を打った私。


どうして五十嵐があんな状況に陥ったのかは分かったけれど、佐々木の動機が分からない。


「何で、佐々木は五十嵐に本を読ませようとしたんだろう」


独り言の様に呟くと。


「多分、この前の国語の時間に俺が指された音読の事が広まったんじゃない?」