(だって、あの佐々木だもんね)


過去に私を傷つけて終わるならまだしも、五十嵐をもからかうなんて。


しかも、胸ぐらまで掴んで。


ああ、今まで佐々木と同じ高校だという事も知らなかった。


私としては、同じ学年に佐々木が居た事から、もう信じられない。



(懲りないね、佐々木)


もう既に、私は“優希”ではない。


学校では封印していた“勇也”が、私の中で首をもたげている。


「……ねえ佐々木、五十嵐に何してんの?」


自分で放ったこの一言で、私は、“勇也”になった。



「えっ、安藤……?」


前までの“私”とは全く違う“私”に驚いたのか、先程まで私と目を逸らしていた五十嵐が驚いた様に口をぱくぱくさせた。


けれど、私は五十嵐の声を無視して佐々木に話し掛ける。


「本当に懲りないんだね、お前って。…中学で俺が言った事、忘れた?」


「っ……!」


声のトーンも、口調も、目つきも、全てが。


今の私は、“優希”ではなくなっている。


いつかと同じ様に、佐々木は目を見開いた。


「お前……」


「五十嵐に、何してたの?」


私の事を睨みつける佐々木に向かって、私は口角を上げながら1歩近づいた。


「ねえ、何してたのって聞いてんだけど」


もう1歩。


佐々木が、五十嵐のワイシャツから手を離した。