(えっ……)


余りの驚きに、自分の心臓が止まってしまったかと思った。


一瞬、涙も引っ込んで。


けれど、彼から伝わるぬくもりが、これが夢ではない事を証明していて。


「俺ね、安藤の事が好きだから、あの時も辛い事が全部無くなったんだ」


五十嵐の声を聞きながら、私は私の中に温かな何かが生まれていくのを感じた。


それは、少し前から“勇也”としてでも“優希”としてでもなく、“私”として感じていたものだった。


いつかの胸の高鳴りも。


不意に、彼の事だけを考えてしまう事も。


恋愛をした事がなくて、常に“勇也”として生きてきたせいで分からなかった感情。


「私も……今、辛い気持ちが、軽くなった気がする」


彼の表情が見えなくても、私はゆっくりと言葉を紡ぐ。




「私も、……五十嵐の事、好きみたい」




お互いに、“好き”とは言わずに“好きみたい”と核心はつかないけれど。


それでも、彼とのハグは。


確かに、心が穏やかになって、辛い事を忘れてしまう様な、とても温かいものだった。


「っ……ありがとう」


五十嵐が、私を抱き締める力を強くする。


「…ううん、こっちこそありがとう」


たった30秒のハグの力は、絶大な気がする。


私も、そっと彼の背中に両手を回した。


そのまま目をつぶると、新たな涙が頬を流れるのを感じた。