「別に……うん、もう仕方無いから…」


私も、フォローらしからぬフォローをして、また話を続けた。



その後、ずっと家では兄になりすまして生活をしていた事。


中学校は何とか乗り切ったものの、高校に入ってからは自分が誰なのか、本当に分からなくなってきた事。


新しいクラスメイトに少しでも疑問を持たせない様に、細心の注意を払って“優希”として生活した事。


その頃にはもう、“男っぽい”という言葉を聞きたくなかった事。


「あっ、だからあの時……あの時も。…ごめん、本当に」


眼鏡を付けたり外したりしていた彼は、考え込む様な仕草をして謝った。


「もう、本当に大丈夫だから…謝らないでよ、私が悪かったんだから」


それにしても、人に相談したり打ち明ける事は、これ程までに心が軽くなるものなのか。


花恋にも話はしていたけれど、私の秘密を知る相手が1人増えただけで、こんなにも安心が出来るだなんて。


(もっと早くから、誰かに相談すれば良かった……)


大ちゃんの考えは、合っていた。


「えー…それで?」


上目遣いになって尋ねる五十嵐の姿が意外にも可愛くて、私は笑みを零しながら話を続けた。



五十嵐に“男っぽい”と言われた時、図書室に来る事が本当に嫌になった事。


音楽室に逃げる事しか、頭になかった事。