最初は演技をする事を楽しんでいたし、そもそも何かのドッキリだと思っていた事。


けれど、何度私の名前を母親の前で言っても、母親は不思議な顔をするばかりで、私の事は変わらず“勇也”と呼び続けた事。


「っ……」


五十嵐の顔が、どんどんと青ざめていく。


花恋も、初めてこの話を聞いた時は彼と同じ様な反応をしていた。


だから、私は彼の顔を見なかった事にして言葉を紡いだ。



段々外見が男の様になっていた私は、学校でいじめられる様になった事。


そんな日々が続いたある日、間違えてクラスので家の中で使う口調-つまり男口調-になってしまった事。


その日に花恋と仲直りをした私は、今まで隠してきていた事について初めて打ち明けた事。


「ずっと泣いて、この事は誰にも言わないで、2人だけの秘密にしようねって、約束したんだ。……破っちゃったけど」


私の言葉に、


「いやいや、破ったって言っても今回のは仕方無いよ。だって怜音がうるさかったわけだし」


すかさず、本棚の奥から花恋のフォローする声が聞こえてきた。


どうやら、彼女は全く本を探してはいない様で。


「…はい。反省してます、ごめんなさい」


本棚からの圧力に負け、五十嵐が小さく反省の言葉を口にした。