何かのいたずらだと思って居たけれど、私の名前は呼ばれなかった事。


そして翌日、また髪の毛を切りに行った事。


「え、何で?」


その問いに、兄の事や急な母親の変貌を見た時の心情をありありと思い出してしまった私は、目を潤ませながら答えた。


「ママは私の事を男だって思ってたから…。肩までの髪の毛って、長いと思ったんじゃないかな」



何故だろう。


1人になった時にしか吐き出さなかった、吐き出せなかった想いが。


彼の前だと、全て吐き出しそうになる。



「えぇ……」


さすがに、彼も私の話す内容がこれ程までに重苦しいものだと思っていなかった様で。


「その……あー……」


と、何かを言おうとしてまた口を閉じた。


やはり、こんな境遇の私に掛ける言葉は上手く見つからないのだ。


「…ごめん、止めちゃって…良いよ、話して」


結局、自分の事の様に数秒片手を顔に当てた五十嵐は、ゆっくりと息を吐いて私に話の続きを求めた。


話の内容がどうであれ、やはり好奇心には勝てない様だ。


「うん」


私は、目尻に溜まった涙をそっと拭いた。



髪を切った後、私の余りの変貌に驚いた花恋と喧嘩をしてしまった事。


そのまま、仲直りが出来ない日々を過ごした事。