そもそも、今まで兄弟が居ないと言っていたけれど、実は兄が居た事。


過去形なのは、兄が私が中学生の時に不慮の事故で亡くなったから。



そこまで話すと、五十嵐は、


「……何か、ごめん」


と、俯いた。


「でも、聞きたいんでしょ?」


本棚の方からは、本を探しに行った花恋の視線を感じる。


「うん…でも、何で隠してたの?その…安藤の、お兄さんが…」


五十嵐が、信じられない程遠慮気味に私に質問をしてきて。


「あー……」


私は、少しためらった後に答えた。


「普通に、言いたくなかったっていうか…あんまり、ややこしくしたくないなって…」


でも、そのせいでこんな風になったんだけどね、と、私は自虐的に笑って話を続けた。



兄が亡くなって1週間後、私は長かった髪を肩まで切りに美容院に行った事。


すっきりした自分の髪の毛が気に入って、母親に何て言われるかとても楽しみに家に帰った事。



「でもね……私のママ」


涙腺が緩むのを感じながら、私は言葉を続けた。


「私の事、分からなくなってたんだ…」


「えっ?それって…?」


五十嵐が、分かりやすく反応する。


「うん、つまりね……」


1度話し始めたら、もう止まらなかった。



母親が髪の毛が短くなった私を見て、


『勇也、おかえり』


と言った事。