「五十嵐が俺との電話で聞いたのって、この声だろ?」


「あっ………え?」


私の突然の変貌ぶりに目を見開いた五十嵐は、訳が分からないと言った様子で眉間にしわを寄せた。


「そうだよな?あれ、違うっけ?…五十嵐、俺が男っぽい喋り方するって言わなかったっけ?」


「言った……けど、え?」


私は彼を試す様に、机に肘をついて五十嵐の顔を覗き込んだ。


「私ね……家で、男なんだ」


「えっ…?いや、今私って……でもさっき、俺って……」


五十嵐は、明らかに困惑した表情を浮かべていた。


「ごめんね、ずっと隠してて…」


私は少しだけ口角を上げた。


「あー、待って、よく分かんない」


まあ、それもそうだろう。


脈絡も無しに、言いたい事だけ言ってしまったのだから。


「あー、ごめん。…全部話せば長くなるんだけど…」


遠慮がちにそう言うと、


「別に良いよ。俺、聞きたいし」


五十嵐は真顔で頷いた。


「うん……始まりは、中学生の時だったの」


あれ程、言いたくなかったはずなのに。


(もういいの、全部どうにでもなれ)


もう、全てを諦めた。


例え、私がどうなっても構わない。


もう、何も見えない。


元々、私に色は無かったのだから。



私は、大きく息を吸って話し始めた。