私の本音は、あなたの為に。

後々大変だからと思い、私は“居ない”と答えた。


どうせ、いつか言えばいいだけだから。




けれどこの後、私は自分の発言に猛反省する事になる。



「…そっか、じゃあ」


たっぷりと間を空け、五十嵐が次の一言を発した。


「……“勇也”って、誰かな?」


(ちょっ、怖いよ五十嵐…!)


私の横から顔を出して私の顔を覗き込む五十嵐の顔は、早く真相の知りたい幼い子供の様な表情だった。


「“勇也”って言ったの、安藤のお母さんだよね?…で、安藤には兄弟が居ないんでしょ?…じゃあ、誰なのかな?」


「っ……」


一向に口を開かない私の周りを、五十嵐は勿体ぶりながら歩き始めた。


「お父さん?彼氏?」


「彼氏って…私、彼氏は居ないよ」


思わず、私はそう突っ込んでしまう。


「じゃあ、誰?」


私の目の前で立ち止まってこちらを見た五十嵐の目は、今度こそ笑ってはいなかった。


「あと。安藤、自分の事を“俺”って言ってたよね?」


「…言ってないよ」


私は、床だけを見ながらそう答える。


床の模様が、恐ろしい形相をしている顔に見えた。


「言ってたじゃん、“俺”って」


「…いつ?」


(こんなに唐突にくるなんて……)


五十嵐の身体中から溢れ出す心配と好奇心のオーラが、私を包み込もうと近付いてくる。