私の本音は、あなたの為に。

と。


「あ、安藤ー」


後ろから、今さっきまで考えていた人の声が聞こえた。


(っ!)


私は、足を止めて振り返る。


彼-五十嵐-は、こちらに向かって図書室の鍵を振り回して歩きながら笑ってみせた。


「図書室の鍵。持ってきたよー」


下手をしたら鍵を飛ばしてしまうのではないかと心配になる程、五十嵐は鍵をぶんぶんと振り回し、私の横を通り過ぎて行った。


そして急に振り返り、


「ん?安藤、早く来てよ」


と、私の名前を呼ぶ。


(五十嵐、全然大丈夫じゃん)


「あ、うん」


もしかしたら、五十嵐は昨日の事について聞いてこないかもしれない。


彼の様子にほっと安堵した私は、また歩き始めた五十嵐の後を追いかけた。



図書室に入り、私は足を止めた五十嵐の横をすり抜ける様にして机にリュックを置いた。


「今日、私本棚の整理……」


「ねえ、昨日の事なんだけどさ」


私の声を遮った彼の声は、驚く程に落ち着いていて。


「……」


「聞きたい事あるから、聞いてもいい?」


駄目って言われても聞くけどね、と、後ろに立つ五十嵐は漏らした。


「安藤って、兄弟居ないんでしょ?」


(…これなら、答えられるかも)


「…うん」


亡くなってしまった兄の事を兄弟が居るものだとして捉えるのか、居ないものだと捉えるのか。