私の本音は、あなたの為に。

「えっ、でもね」


「ごめん怜音、私2年の先輩に用があるんだ。またね!」


まだ何かを言いたそうな五十嵐の声を遮る様にして、花恋が口を挟んだ。


その直後、誰か-花恋だろう-が廊下を走り去る音が聞こえた。



そこまで聞いていた私は、若干の疑問を覚える。


(あの2人、何を話していたんだろう…)


けれど、今は彼に何も聞けない。


彼に何かを聞ける程、今の私は強くない。



(…疲れたな。しかも今日、係だし……)


係で思い出したのは、この前の五十嵐の怯えよう。


(あの時、何に怖がってたんだろう……)


今更ながらそう思っても、やはり彼に聞けなくて。


五十嵐は、1番後ろの自分の席に座り、ぼーっと宙を見つめていた。


(…無理)


そう勝手に結論づけた私は、机に向かってうつ伏せになった。



放課後。


(帰りたい…)


いつかと同じ感情が胸の中に渦巻く中、私は重い足を引きずって図書室に向かっていた。


朝のあの一件以来、五十嵐とは口もきかず、目も合わせていない。


休み時間に花恋の元へ行こうと考えたけれど、全ての休み時間において彼女に会うタイミングが合わず。


(絶対五十嵐に聞かれるじゃん…)


昨日、夜更かしまでして考えた返答の仕方を頭の中で反すうしながら、私は廊下を進んで行った。