私の本音は、あなたの為に。

「ん?」


立ち止まった五十嵐がまだこちらを見ている気がするけれど、そんな事はどうでもいい。


(やばい…落ち着いて、私!)


明らかに、怯え過ぎている。


このままでは、何もしなくても五十嵐に勘づかれてしまうかもしれない。


(大丈夫、全然平気。こんなの、ママに忘れられる事に比べたら…)


そう。


親に忘れられる事に比べたら、こんな事は朝飯前だ。



何とかして私がようやく落ち着きを取り戻した時、五十嵐は既に廊下へと出てしまっていた。


「…宮園?おはよーっ」


開け放されたドアの向こうから、五十嵐の声が聞こえてくる。


「あ、怜音!おっはよー!」


トントン拍子で、花恋の明るい声が聞こえてきた。


「あっ、ねえ宮園、ちょっと聞きたい事が…」


その直後、五十嵐の声がほとんど聞こえなくなった。


「え…?うーん、ちょっとよく分からないかな、」


その数秒後、若干震えている様に感じる花恋の声が聞こえた。


「でもね、聞いてよ…」


そこで、また五十嵐の声が小さくなった。


「あっ……それね!気のせいだと思うよ、うん!たまにあるよね、そういう聞き間違い」


その直後に耳に流れ込んできた花恋の声は、こちらがぎょっとする程大きくて。


無理やり、自分自身を納得させている様にも聞こえた。