私の本音は、あなたの為に。

(ママ…名前、呼ばないで…)


私は、ベッドに置いてあったスマートフォンを取った時と同じ立った姿勢のまま、キュッと唇を噛み締めた。


ママからの呼び掛けに、私は答えられない。


『…安藤』


電話口では、五十嵐がまた何かを話しかけ。


「今日の夕飯、オムライスなのよ。夕飯抜きにしちゃってもいいのねー?」


ママからは、軽い脅しがかかる。


(えっ、夕飯抜き!?それは駄目!)


その時の私は、ほとんど何も考えずに口を開いていた。


「母さん、駄目!すぐ行くから、俺の分も取っておいて!」



五十嵐と電話をしている最中だという事も、忘れて。




『えっ…?安藤?』


数秒の間の後、五十嵐が私に向かって声を掛けてきた。


その声は低く、真剣なトーンだった。


「えっ?ああ、ごめん、五十嵐の話聞いてなかった。何?」


てっきり、私は五十嵐が先程の会話の続きをするものだと思っていた。


『安藤、“勇也”って誰?安藤の家って、兄弟居たの?』


(えっ!?)


余りの驚きに、私の手からスマートフォンが滑り落ちそうになる。


慌てて両手でスマートフォンを掴み直した私は、


「ごめん、何て?」


と、彼に聞き直した。


(やばい、間違えた…!)


と、もう言い直せない私の言葉を悔やみながら。