私の本音は、あなたの為に。

(五十嵐、また間違えてる)


何とも言えない打ち間違いのメールに、私は思わず笑みを漏らす。


『…どう、聞こえる?安藤ー』


急に五十嵐からの声が耳に入り、私ははっとして応答した。


「あっ、ごめん!聞こえるよ、どうしたの?」


私は、自分の口調が“優希”に戻っている事に密かに安堵した。


『あのさ、図書室の本の返却期限って何週間だっけ?4組の友達に聞かれたんだけど、俺ど忘れしちゃって』


「返却期限?…ちょっと待って」


(えーっと、確か2週間だったかな?)


突然の事に、私もはっきりと思い出せない。


その時。


「夕飯出来たわよ、早く来てー」


リビングから、ママの声が聞こえてきた。


(ママ!)


けれど、私はママに向かって答えられない。


下手をすれば、五十嵐にばれてしまうかもしれないからだ。


「多分、2週間だった気がするよ」


だから私は、ママからの呼び掛けを無視して五十嵐に返答した。


『おー!そっか、ありがとう!』


それで、五十嵐との会話は終わるかと思いきや。


『今の誰?安藤のお母さん?』


ママの声は、五十嵐にも聞こえていた様だった。


「うん、そうだよ」


「勇也ー、まだなの?」


私の声と被る様に、ママの催促の声が聞こえてきた。