「それで、映画の内容はどんな感じなんですか!?私、あらすじも読んでいなくて…。題名を聞いて観たくなっちゃって!」


目の色を変えて聞いてくる花恋に、私は若干の戸惑いをみせた。


さすがに、あのあらすじは私の口からは言えない。


「えっ、と…」


しどろもどろになりながら口を開くと、


「記憶障害がある男子高校生に、同じ学校の女子高校生が恋をするお話よ。凄く良かったから、花恋ちゃんも観た方が良いわよ」


私の言葉を遮ったのは、ママだった。


「あっ……」


一瞬で顔が青ざめた花恋と、


「っ……」


今ここに穴があったら、耳を塞いで目をつぶって入りたい気分の私。


きっと、花恋はママの一言で何故私があらすじを説明しなかったのか分かったのだろう。


「はい、ありがとうございます。……優、……勇也君、ちょっと話したい事が……」


彼女は最大限の冷静さを装って、私を呼んだ。


「っ、うん」


母さん、先に帰ってて良いよ、と私はママに言う。


「分かったわ、気を付けて帰ってきてね」


ママは、私達2人の異変に気付かないまま、手を振って歩き出した。


「さようなら……」


か細い声で別れを告げる花恋の体は、小刻みに震えていた。