(私も、こうすれば良かったのかな…)


また、1粒の涙がこぼれ落ちた。



そして、私は涙目になりながらも映画を観終わり、ママと一緒に映画館を後にした。


「凄かったわね、映画。私、また観たくなっちゃったわ」


映画を見る前と何も変わらない笑顔で、


「勇也」


と私の事を呼ぶママに、私は内心泣きそうになりながら、


「うん、そうだね…」


と、心のこもらない返事を返していた。


心の痛みを実際の痛みで消す様に、手のひらに爪を食い込ませながら。


すると。


「あら?花恋ちゃん?花恋ちゃんじゃないの!元気にしていた?」


急にママが立ち止まり、斜め前を歩く人に向かって話し掛けた。


(花恋?)


その言葉を聞いただけで、私の心は飛び上がった。


(花恋!)


「えっ?」


私達の方に向かって歩いて来た女子-花恋-は、驚いた様に立ち止まり、ママを凝視した。


そして、


「こんにちは、優……」


そこまで言いかけた花恋は、ママ横に立つ私を見て慌てて言葉を止めた。


“優希のお母さん”


と言ってはいけないからだ。


「こんにちは………勇也、君のお母さん」


花恋は、私の表情を伺いながら言い直す。


(花恋、ごめんね。…でも、ありがとう)